夕闇の旋律
悠矢は暗くなった病室でCDを淡い光に反射させた。

それは、ぼんやりと光をまとっているようにも見えた。

このCDには詩音の曲が入ってる。

詩音は何も言わなかったけれど、悠矢にはそれが自分のための曲にしか見えなかった。

その旋律には、狂おしいほどの大きな感情がこめられていて、それだけで膨大な魔力が込められているような気がした。

人には声帯に魔法が宿るけれど、本来魔法は『音』に宿っているものなのだ。

その曲には一音一音、一つ一つの旋律に魔法が宿っている。

これに見合うほどの歌詞を、自分は作れるのだろうか。

魔法使い、詩音と肩を並べられるほどの……。

ぽろっと悠矢の手からCDが落ちた。

自分の膝の上に落ちたCDを見つめ、悠矢は深くため息をついた。

『悠矢くんになら、出来るよ』

そう言ったときの詩音の顔。

それは今でも鮮明に思い出せる。

たぶん、自分が死ぬまで消えたりしないだろう。

その表情にある思いが悠矢に伝わったから。

その思いは、悠矢だけは壊してはいけなかったから。

でも、きっと壊してしまうから。

だから忘れることなんて、できない。

悠矢はCDの表面に何かを書くと、それをケースにしまって棚の上に置いた。

それから布団に潜り込むとぐるぐると同じことを考えつづけて眠りについた。




『詩音の旋律』



悠矢の込めた、それが最初の魔法だった。
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