夕闇の旋律
「な、なんだよ。二人して何やってんだよ……」

「動かないで……ちょっと我慢して……」

詩音はそう言うと顕微鏡を滑らした。

悠矢がぞっとしたように身を震わせる。

緻密で細かい羽の模様。歪んだものは一つもない。

不吉な、黒い翼……。

「し、詩音?」

「なに?悠矢くん」

「もういいだろ、離れて……欲しいんだけど」

「どうして?」

「……息がくすぐったい」

「……あっ」

詩音は頬を赤く染めて悠矢から離れた。

そうだ、今まで詩音の目と鼻の先に悠矢の素肌があったんだ。

その事実を忘れていた。

野崎はそんな二人の様子をにやにやしながら見ていた。

ただ、瞳の色は暗く、考えにふけっているようにも見えた。
< 44 / 76 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop