夕闇の旋律
詩音は悠矢の病室を出ると、扉にもたれかかってふぅ、とため息をついた。

追い出されたわけではないが、見ていて楽しいものでもないので出てきたのだ。

詩音は病室からうめき声が聞こえてくるような気がして、嫌になった。

奇病に死病。

50年に一度、高い魔力を持つものだけがかかる病。

原因不明で詳細不明。

神様が、才能あるものを、その声が枯れないうちに連れて行ってしまうんだ。

そう言って、翼を広げて死んでいった人もいたらしい。

だから、魔法学者の間では研究材料として悠矢を使用している。

使用……しているんだ。

モノとして。

そしてその第一人者が野崎だ。

だから、あの人は好きになれない。

詩音はゆっくりと病室のドアから離れると、歩き出した。
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