夕闇の旋律
野崎が屋上に行くと歌が聞こえた。

「っなんだ!」

突然がくっと力が抜けて膝が床についた。

立ち上がることができない。

「くっ……詩音!」

野崎が叫ぶとぴたり、と歌がとまった。

「先生はいつも悠矢くんの診察の後、ここに煙草を吸いにきますね」

「待ち伏せて動けなくするとはな。はんっ、魔法使いは何考えてんだかさっぱりわかんねぇ」

「わたしはエンチャントは得意ではないので、術式組み立てるのに時間がかかるんですよ。先生の前に人が来なくて良かったです。対象を誰彼構わず縛ってしまうから」

「話しがあるんだろう?じゃなきゃこんなことするわけねぇしな。でも生憎俺は話すことなんてこれっぽっちもねぇからな」

微妙にかみ合わない会話を続けている間に詩音は屋上の扉に簡易な鍵をかけた。

これで、内側からは屋上に入ってこれなくなるだろう。

「先生は黙っていても構いません。私が一方的に話すだけです」

くるり、と詩音は振り返って言った。

「悠矢くんを実験体にしているんです。先生には相応の責任がありますよね。だから悠矢くんを簡単に死なせたりできません」

絶対に。

詩音は野崎に向かってはっきりと言い放った。

< 47 / 76 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop