夕闇の旋律
詩音は病院の隣の公園に来ていた。

きぃ、とブランコが音をたてて揺れた。

伏せていた目を上げると、目の前に女の人がいた。

古い記憶、そのままの姿のお姉さん。

「どうしたの?」

「歌は……簡単に作れるものじゃなかった。本当に大事な想いを、魔法を歌に込めたいときは……すごく、難しくて、繊細で、すぐに壊れてしまうガラスを組み立てている気分」

「あらあら、忘れちゃったの?歌を作るときは、想うことも大事だけど、もう一つ大事にしなきゃいけないことがあるって教えたはずよ」

詩音はまた目を伏せた。

「……思い出せない」

「じゃあ、思い出せるように歌ってあげる」

そういってお姉さんは歌い始めた。

優しい歌だった。

とても楽しそうに、切なそうに、嬉しそうに、悲しそうに歌った。

聞いているうちに詩音も一緒に歌いだした。

歌は明るく変わっていって、二人で楽しそうに、嬉しそうに歌っていた。

歌い終わって、お姉さんは詩音に微笑んだ。

「思い出した?」

「思い出した!ありがとう、お姉ちゃんっ」

詩音は走って公園を出て行った。

詩音が公園を出て行ったあと、そこにはもう誰もいなかった。
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