夕闇の旋律
「それにしたって、まるで……魔法に意志があるみたいじゃないか……」

「声帯には魔法が宿っている。それが知られるようになったきっかけを少し教えてあげる。300年くらい前にね、アウィング症候群の女性がいたの。その女性が魔法に願ったの。魔法で、奇跡でいっぱいの素敵な世界にしてくださいって。それを叶えるために、魔法は人に姿を現した……。それともう一つ」

詩音はぴっと人差し指を立てていった。

「『自分や悠矢くんみたいなアウィング症候群の人を救ってください』」

詩音の声の響きに不思議な感覚がまざった。

二人はしばらく何も言わずに、お互いの考えを読もうとするようにじっと見つめあった。

「どういうことだよ、それ……」

「昔、アウィング症候群の人はその声と不気味なあざのせいで悪魔の生まれ変わりって言われてたらしいの。だから迫害されててね……監禁ならまだましで、暴力を振るわれたり、のどをつぶされたり、ひどいときには殺されてたって」

「な、なんでだよ!ただっ……人より魔力が多いだけの、ただの人なのに!」

「昔の人は、そういうこと知らなかったから……。でも、彼女はね、魔法の存在に気づいてたの。そして、彼女を守ってそばにいてくれた大事な人がいた。それでもいろいろ苦労とか、したみたい……」

悠矢は詩音の詠った魔法の問いかけに宿っていた重圧を思い出した。

いったい、あの詩のなかに、いったいどれだけの想いが込められていたのだろう。

「だから、魔法の存在を知らしめて守ろうと思ったんだと思う。それに、アウィング症候群の人は早く死んじゃうから、せめて幸せにしたかったんじゃないかな」

「幸せに?」

「うん。それが救いだと思って」

「どうやって?」

「私と出会うこと、でしょ?」

詩音は自信たっぷりに笑顔で言い切った。
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