夕闇の旋律
「いつそれを歌うかは決まってるから、だからまだ渡してないだけ」

詩音はそう言って笑った。

委員長はそれを聞いてさびしそうな顔をして、太一はむ、と口をつぐんでしまった。

「おいおい、やめろよ。俺はこういう空気嫌いなんだよ。それでも奇跡起こすためにつくった歌なんだ。悲しいものじゃないし、終わりでもない」

「そういうこと。ね、ミオ。私達は信じてるんだよ。ミオがそんなんじゃ、上手くいくはずのものも失敗しちゃうよ?」

「ご、ごめんなさい。そうね……そうかもしれない」

「っはぁ。まあ、俺は昔っからいつもいつかはーって聞かされてたから、もうあんまり気にしてないけどな」

「……こんな話はもう終わり!ちょうどチャイム、なったし、太一は早く準備しないとまずいんじゃないか?」

「あ、やばっ」

教師が教室にはいってきてから、悠矢はふっと息をついた。

詩音は何か言いたげに悠矢のことを見ていたが、結局何も言わなかった。



「悠矢くん!」

帰り、詩音が息を切らして走ってきた。

口から白い息が荒っぽく吐き出されている。

「悠矢くん、朝……」

「詩音……」

詩音の言葉をさえぎって、悠矢は詩音の名前を呼んだ。

「俺の家にきてくれ。渡したいものがあるんだ」

詩音は目を見開くと泣きそうな顔になって、うつむいてうなずいた。

悠矢に命令形で言われた以上、詩音は文句を言うこともできず、ただうつむいて悠矢の隣を歩きだした。
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