夕闇の旋律
詩音はリビングにあがると、悠矢に一枚のCDを差し出した。

「これ、いつも持ち歩いてたのか……?」

「ううん。ただ、悠矢くんの魔力が最近不安定になってきたから、そろそろだと思って」

「そうか……」

悠矢はCDを受け取って、昨日のことを思い出していた。

久々に鏡を見ると、あざが開き始めていた。

もう十分大きくなり、あざが翼を広げ始めたら1週間持たない、と言われていた。

「じゃあ、次は俺だな」

悠矢は一枚のルーズリーフを詩音に渡した。

詩音はざっと読むと、不思議そうに首を傾げた。

「少し……少ない?この間にある空きみたいなのは?」

「これ」

悠矢はもう一枚ルーズリーフを取り出した。

詩音はそれも受け取ると、読み始め、それから慌てたように二枚を見比べた。

「悠矢くん!?これ、まさか……!」

悠矢は詩音の手から後に渡した方の紙を取ると、ざっとかかげた。

「俺も歌う。ただし、歌うのは一回きりだ」

「でもこれ、デュエットじゃないよね?同じところを違う歌詞で歌うの?」

「ああ。でも歌えるはずだ。詩音は曲を作るときメロディー二つ作るだろ?」

「え?」

「でもって、片方がめだつメロディー弾いてるとき、片方は裏に回って、何度か交代する感じ」

「それは裏メロって言って……え?気づいてたんだ……」

「うん。なんとなく、そんな感じするなーって思って」

「そっか……」

詩音は嬉しそうにはにかんだ。

「じゃあ、これ、ぴったりだよ……でも……」

詩音は少しうつむいて言った。

「悠矢くん、わかってる?歌ったら、挨拶もできないまま、たぶん死んじゃうよ」
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