夕闇の旋律
玄関の扉を開くと、冷たい風が吹いてきた。

空は曇っていて、どんよりとした朝だ。

「よぉ」

くぐもった声が聞こえて視線を落とすと、悠矢が来ていた。

マフラーを鼻の上まで持ち上げてて寒そうに体を縮めていた。

「おはよう、悠矢くん。待った?」

「平気。詩音は?寒くない?」

「私も平気。寒いのは割と大丈夫なほうだから」

「そっか。じゃあ、行こう……最初は水族館だっけ」

「それから国立公園、遊園地」



それから、二人で並んで歩いて、遊んで、ブレスレットを買ってもらったり、写真を撮ったりしながら一日を過ごした。

「んー。今日俺が死ぬなんて実感わかないな」

「明日もいつも通りの朝を迎えるように思っちゃうんだよね。不思議」

「確かに。なぁ、国のお偉いさんは今日俺が死ぬって知ってんの?」

「知らないと思うけど。でも、感づいてる人はいるかもね」

そのとき、視界にふわりと風に浮く雪が見えた。

「……寒いと思ってたら雪が降ってきたな」

「珍しいね、もうすぐ春なのに」

「一応まだ冬ってことか……なあ、詩音。屋上行ってみない?」

「……学校でもいい?」

「うん」

学校に入って、職員室にいた教師に頼んで鍵を貸してもらった。

「屋上で何をするの?」

「あ……雪だったから、行きたくなったんです。……雪には思い出があって」

「……そう。私、7時までには帰らなきゃいけないから、それまでには返しにきてね」

「はい、ありがとうございます」

詩音は職員室の時計をちらりと見た。

5時を少し過ぎている。

ほっと溜息をついて詩音は職員室から出ていった。
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