導く月と花に誓う
…けど…
意外と苦しいこと、この上ない。
誰だよ、とか思っていた時。
「ご苦労なことだ」
低い声が降ってきた。
……この声。
「……苦しいんですけど…」
「人間はめんどくせーな」
そう呟くと、ぐいっ、とあたしを引き寄せる。
それによってぐぇ、となるあたし。
もう少し優しく出来ないのか、と。
「…あたしを死なせる気…っ」
文句を言ってやろうと、勢いよく振り返った瞬間。
「………どなたですか…?」
一気にそんな気は薄れた。
確かに、鬼野郎の声でその風格はあるが…。
風になびく、黒髪。
どこまでも澄んでいる紅い瞳。
整いすぎている顔…?
さらに着崩れ気味のスーツを纏い、あたしを見下ろしていたのだ。
「…人間の記憶力はそんなもんか」
確かに言葉使いはいつもの鬼野郎そのもの。
「…もしかして、おに……鬼藍、さん…?」
「俺の他に誰がいる」
…ですよね…。