導く月と花に誓う
「逃げたくば、お逃げください。
今すぐに、早く…」
そうしなければ。と近づきながら、彼は続ける。
「私は貴方を、傷つけてしまう。
取り返しのつかないことをしてしまいます」
………。
…やっぱり、何かが。
…何か、違和感を感じる。
正面にいるのは確かにあたしの愛しい人なのに、なぜか全く知らない人のように感じてしまう。
でも、曖昧で、よくわからないあたしはただ頷く。
「…い、いいよ」
「…! なにを…」
「傷つけていい。
ズタズタに、傷つけていいから……」
―――だって。
「…狐燈の痛みには、変えられないでしょ…」
そう言った時には、彼の姿は、もうあたしの目の前に迫っていた。
広がる九尾の尻尾が、逃げることを許さないかのようにあたしを包み込む。
相変わらずその姿は凛々しく、そして、いつになく儚げだった。