導く月と花に誓う



「逃げたくば、お逃げください。
今すぐに、早く…」





そうしなければ。と近づきながら、彼は続ける。







「私は貴方を、傷つけてしまう。
取り返しのつかないことをしてしまいます」







………。




…やっぱり、何かが。


…何か、違和感を感じる。


正面にいるのは確かにあたしの愛しい人なのに、なぜか全く知らない人のように感じてしまう。



でも、曖昧で、よくわからないあたしはただ頷く。




「…い、いいよ」


「…! なにを…」


「傷つけていい。
ズタズタに、傷つけていいから……」








―――だって。






「…狐燈の痛みには、変えられないでしょ…」





そう言った時には、彼の姿は、もうあたしの目の前に迫っていた。







広がる九尾の尻尾が、逃げることを許さないかのようにあたしを包み込む。







相変わらずその姿は凛々しく、そして、いつになく儚げだった。














< 201 / 378 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop