導く月と花に誓う
―――その夜。
あたしはぼんやり、とベランダで月を眺めていた。
ベランダ、といっても取って付けたようなボロボロで、所々錆び付いている有り様。
まったく…
雪華さんからは、『頑張ってね』と、すごい笑顔で言われるし…
あー…と、脱力しながら腕をだらん、と垂れ下げる。
涼しい風が、あたしをふわり、と包みこんだ。
その風が今度はリリン、と風鈴を奏でる。
…すると。
「千秋さま」
それに被さるように、背後から声が響いた。
あたしは自然に後ろを振り返……る。
……え?
「…なんで、戻ってんの?」
視線の先には、左右に動く二つの耳。
さらには、まるで業火が燃え上がるような、見事とも云えるほどの九つの尻尾。
そう…、
狐燈の姿は、妖狐となっていた。
「…ああ、すみません…。
夜は妖力が強く…
制御がききませんので…」
あ、なるほどね。
…って、なに納得してんのあたし!
その時、頭を抱えるあたしの前にグラスが差し出された。