螺旋迷宮
あたしは短くため息をはくと同時にナイフを手から離す。
それを確認した男は、ゆっくりとした動作でナイフを床に落とした。
カランッ、と乾いた音が狭い部屋に木霊する。
男は重力に逆らうことなく手を垂らす。
ナイフによって傷ついた手はあたしの目の前にやってきた。
そのまま血が滴り落ちるかと思ってじっと見つめていたが、あまり勢いをつけてナイフを下ろさなかったため、かすり傷で済んだらしい。
しかし傷は深くなくても血はじわじわ溢れ出し、流れ落ちる。
指を伝って一筋の血がフローリングに垂れそうになっていたのを確認すると、あたしは迷わずに男の手を取って、傷ついた手の平に吸い付いた。