【完】甘い恋よりもそばにいて
「莉華…愛してる……」
愛してる……?
ぇ…、
何言ってんの…啓?
そんなの嘘でしょ?
だってあなたには由奈さんが…
そう思い
彼の瞳を見つめ返した。
啓の瞳は
酷く、濡れていた。
どうして…?
そして瞬時に疑問が浮かぶ。
どうして
そんなに苦しそうなの…?
悲しげな声で
切なげに微笑む
理由はなに……?
彼が奪っていった10秒は
予想外に複雑に絡み合う。
愛してる…
あたしは知っている、
彼はもう二度と
あたしにこの言葉はかけない。
そして
不意打ちのキスがやってきて
あたしの頬に
一筋の雫。
切なさ、苦しさ、もどかしさ
いろんな感情が
ドッと押し寄せる。
あなたの奪った10秒が
すべてを投げ捨てて
素直になる時間なのだとしたら…
あたしにも
言いたいことがあるの。
「あたしもずっと、
啓を愛してる…」
震える声で懸命に伝えた。
今を逃したら
一生伝えられない言葉を。
そして今度はあたしから
不意打ちのキス
今度はもう少し深く重ねた。
この熱が消えないように。
「啓、あたしはあなたの全部を
知ってる、つもりだよ…?
あなたは何か大切なことを
あたしに伝えてないんでしょう?
そしてこれからも
伝えるつもりはない…。
忘れないで。
もう二度と
愛してると、
伝えられなくても
もう二度と
あなたのそばで、
ただ笑いあうことが
出来なくても……
あたしはあなたを想ってるよ」
心からの柔らかな笑み
ねぇ啓に伝わってる……?
「あたしに悪いとか思わないでよ?
心の中で謝ったりもナシだからね?
あたしは幸せなんだから
あなたからの言葉が聞けて」
ゆっくりと瞳から溢れる
涙。
決して悲しい涙じゃないの。
甘い吐息がそばにある。
ただ今はそれだけで……
笑顔になれる。
ありがとう、啓。
いままでも、
これからも。