利己的ヒーロー
その人物――――〈敵〉は、森の闇に溶け込むようにして立っている。
フード付きの黒いコートに、同じく黒のブーツと手袋。
顔は暗いので伺えないが、それより深い漆黒の髪と、つり目の瞳が強かった。
「……いくぞ」
青年は正直にも宣言すると、剣を顔の横に構えて男へと走る。
剣と青年は矢のように鋭く進み、歴戦の英雄達を彷彿とさせた。
青年は目を見開き、希望と闘気を秘めた叫びをあげた――――
ガゥンッ!!
銃声。
その武骨で大きな音に、鳥が何羽か飛び立ってギャアギャアと鳴く。
青年は叫んだ姿勢そのままに、口と目を丸くして固まってしまった。
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