利己的ヒーロー
幸いな事に、どうやらマッチョは冷めるのも早いらしい。
マスターの言葉に気を良くしたのか、にやりと下卑た笑みを浮かべて強行突破に出る。
「な、こっち来いよ」
と、ぐいとマーリンのなめらかな白い腕を引っ張ったのだ。
けれども、なおもマーリンは顔を向けぬまま、意外に強い力で武骨な腕を振り払った。
さて、復習をしようか。
このマッチョ達は怒りの沸点が、ものすごく、低い。
「〜〜〜〜っ! 調子に乗りやがって!」
案の定、マッチョは顔を赤くし、唸りをあげた。
そしてさらに案の定、マーリンの肩をつかんで強引にこちらへ向けさせる。
緊迫するバーの空気。
他の客はバーから出るに出られず、または楽しんで、なりゆきを見守っている。
そんな中、マーリンだけは怒りにさらされても秀麗な顔を崩すことは無く、マッチョを平然と睨みつけた。
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