君しか見えない。
「っち、違うよ…!」
だけどそんなささやかな期待も、
いつものようにミズの必死な声にかき消される。
…そこまで必死に否定しなくたって。
「も、もうあたし…帰るね…!」
そして、
そのままスルリと俺の横をすり抜けて彼女は家を出て行く。
何度となく繰り返す同じ行動に、俺は最近小さな苛立ちを覚えるようになった。
リビングの中央に足を進めると、湯気を立てる温かい朝食。
炊飯器にはご飯。
コンロの上の鍋には味噌汁。
いつの間にか、ミズによってこれが用意されているのが当たり前になっていた。
「…料理上手くなったな、あいつも」
きれいに盛り付けられた朝食を見て、無意識にそうつぶやく。
初めはぐちゃぐちゃだった目玉焼きも、
つながっていたキャベツも、
酸っぱすぎた味噌汁も。
「…いただきます」
リビングの机に座り、
いつも通り朝食をとる。
もともと俺とミズは、幼なじみだった。