永遠の翼
「・・・寒っ」


家を出た途端に、身を凍らすような寒さが襲う。


「冬なんだから、当たり前だよ」


詩織は平気らしく、涼しい顔をしている。


「とっとと行くぞ。このままだと俺が凍え死ぬ」


そっけなく俺は歩き出す。


「あっ、待ってよ~」


慌てて詩織もついてくる。


ヨーロッパ風の街並みを、ふたり並んで歩く。


俺はこの街の外観や雰囲気が好きだ。


さて、俺がいとこの家にすんでいる理由を話そう。


俺の父さんは世界的なピアニスト。


母さんも、結婚前まではチェリストだった。


10歳ほど離れた俺の姉さんも、音楽に関係する仕事をしている。


そんな音楽一家に生まれた俺も、自然と音楽の世界に足を踏み入れていった。


小学生のころは引越しが多かった。


だが、俺が中学生になって父さんの仕事が海外中心になったのを機に、叔父さんの家・・・川上家にやっかいになることになった。


本来は俺も両親についていくはずだったが、俺が海外での生活を拒否したからだ。


そんな俺の身勝手な希望を、秋夫さんは二つ返事で了承してくれた。


しかも俺のピアノの指導もしてくれているのだから、感謝してもしきれない。


詩織とはそのときからのつきあいだ。


無愛想でひねくれている俺と、明るくうるさいコイツとは、性格が対象的なのが功を奏したのか仲はそれなりにいい。



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