永遠の翼
ピアノ室。


ピアノがあるこの部屋を、俺たち家族はそう呼んでいる。


正確には元・ピアノ教室の部屋だ。


秋夫さんの奥さんが昔ピアノ教室に使っていた部屋だ。


そのひとが故人となった今でも、家族全員がこの部屋を使う。


俺と詩織はピアノの練習、秋夫さんはたまに生徒を連れ込んでここで練習させたりする。


あまり飾り気はないが、落ち着く印象を与えるこの部屋は、今でも多くの人に愛されているのだ。


特に秋夫さんは、この部屋に対する思い入れが強い。


いつもの通り、ピアノのふたを開ける。


鍵盤を2,3度弾いた後で椅子に腰掛ける。


弾くのはラヴェルの『ソナチネ』。


俺は特に練習する曲がないときはこの曲を弾く。


もちろん、お気に入りだからだ。


今は発表会やコンクールの予定はない。


だから、練習しなきゃいけない曲はない。


気分に任せて音色を奏でる。


―――俺の音。


―――俺の、奏でたい音。


それを探すために。


音色を部屋に響かせる。


だが、自分で聴いていて思う。


なんて父さんの演奏に似ているのだろう、と。


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