終末の法則
 あたしは、伝承者の狼狽えた瞬間を狙って、エア・ソードで切りつけた。

 時晶球を持っている奴の左手を斬り飛ばし、宙に浮いた時晶球を左手で掴む。

「ぐおっ、ぐぐ、私から時晶球を奪っても、世界は勇者を望みますよ。勇者を望み、英雄を望み、支配者を望む。要するに、困ったときに責任を押しつけられる者を望むのです」

 伝承者は右手で左腕を押さえながら言った。

 滑らかな傷口からは、あまり出血していない。

「だからあなたは代役を立ててたわけね」

「そうです。ですから、世界が変化を望んでも、私は変わることなく伝承者でいられたのです。さあ、時晶球を返して下さい。まだ未来は決定されていない」

 伝承者は、ゆっくりとあたしに近付いてきた。そして、ゆっくりと血塗れの右手を差し出す。

 ああ、やだやだ。

 未練たらしいったらありゃしない。

「無駄よ。あたしと同じ手は通用しないわ。あたしはあたしに対して干渉しているのだもの。つまり、あなたは時晶球に干渉出来ないの。安心しなさい。あたしが勇者と伝承者を続けてあげるから、じゃあね」

「!」

 伝承者は最後に情けない顔をして、あたしの目の前から掻き消えた。
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