クリスマス・ハネムーン【ML】
「解のなかなか見つからない、難しい方程式を解くのは好きだけど。
 どんなに厄介な式だって、解き方さえ判れば、たいしたことないさ。
 でも。
 ひとの心は、もっと複雑で難解なモノだって、教えてくれたのは、君だ」

 そう、ハニーは穏やかに、言った。

「現に、今だって。
 螢君は泣いてる……」

「な……にを言ってるんだよ!
 僕がこんなところで、泣くわけがないだろう!」

 と意地を張れば。

 ハニーの大きな手と腕が、ふわりと、僕の頭を抱きしめる。

 その袖に、頬が当たり、薄く。

 水の染みが出来たのを見て、僕は。

 自分が本当に泣いていることに初めて、気がついた。

「もう、私の前では意地を張るな……螢。
 君は、もう雪の王子に戻らなくて良いんだから」

「……」

「羽田空港に直通している、アクアラインが、開通したから。
 別に、都心に住まなくても私の用は足りる。
 君は、海の見える千葉の田舎の私の家に一緒に住んで。
 爺さん婆さん相手に、看護師をやって、過ごすんだろ?」

「……」

「これから先の人生を、私と一緒に歩いてくれるなら。
 君の心に、二度と雪は降らない。
 積もるのは、私の『想い』だけだ」

 そう真剣な顔でつぶやいて、少し照れたのか。

 ハニーは、くす、と笑った。

 その笑い方が、何だかとても、安心で。

 僕もつられるように、小さく笑う。

「やっと、笑ったな。
 螢」

 ハニーは今度は、もっと、はっきり笑うと、その大きな手で、僕の頬を包んだ。

「オーストラリアは、今は夏だ。
 サンタもきっと海パン一丁でサーフィンしてる。
 私たちも、どこまでも続く珊瑚礁のグレート・バリアリーフで二人。
 熱帯魚を追いかけて、スキューバ・ダイビングをしよう」


< 10 / 174 >

この作品をシェア

pagetop