クリスマス・ハネムーン【ML】
「わたしたちが……ここに来たために犯罪交渉人との示談が決裂したと……
 警官隊と、全面衝突したみたいです。
 もしかしたら、わたしたち、全員殺されてしまうかもしれませんが……
 た……多分、あの言い方ですと……警官隊の方が有利で。
 あの男は、ここに戻って来ません。
 まもなく、助けが来るでしょう」

 なんとか、口うつしで、ハニーに薬を飲ませ。

 今度は、僕が裸の上。

 手を縛られていることにやっと気がついた佐藤は。

 クローゼットから、新しいシーツを出して、僕を包み。

 手の戒めを解こうと、躍起になっていた。

「霧谷さんにも、薬を飲んで貰いましたし、もう大丈夫です。
 この夜が明けたら、何もかも元通りになって、旅行の続きが出来ますよ。
 ……大丈夫です。
 もし、このままグレート・バリアリーフに残るのが嫌なら、エアーズロックへ登山でもいかがですか?
 大丈夫です。
 ゴールド・コーストにコアラを見に行っても……」

 とても早口に『大丈夫』を繰り返しながら。

 僕の手の縄を解こうと、格闘し。

 ……とうとう、素手では、びくともしないコトを悟ったらしい。

 佐藤は、僕の手を縄ごと自分の手で包んで、うつむいた。

「……すみません。
 わたしには、できません」

「いいよ……
 僕を……縛ったヤツは……あれでも一応……プロだし」

 半端にしたら、縄なんて。

 とっとと解いて、反撃することを良く知ってるから。

 特殊な結び目で、思い切り強く縛って行きやがったんだ。

 佐藤が解くのは、まず無理だ。

 誰か来たらナイフを使って切ればいい。

「警察が……来るんだろ?
 黙って出て……来ちゃったから……ジョナサンがきっと怒って……」
 
 僕がそこまで言った時だった。

 ぱた……た、と。

 僕のしびれかけた手に、暖かいものがこぼれた。

 さっきまで、僕に何度もぶちまけられた体液じゃない。

 人間から出てくるシロモノとしては、同じなのに、もっと優しく降り注ぎ。

 そして塩辛いモノ。

 ……涙。

「佐藤……あんた。
 ……もしかして、泣いて……る?」

 
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