クリスマス・ハネムーン【ML】
「ハインリヒ……」

「君が言った『新しい恋人』が。
 絶対にあり得無いジョナサン・ボガートだったから。
 岩井君とも、ある程度冷静に話が出来たが……
 そうでなければ、きっと、めちゃくちゃだった」

 ハニーがささやくたびに。

 甘く痺れて来るような思いが僕の首から、全身に。

 ゆっくりと染み渡って来る。

「私は、かなり嫉妬深く、自分勝手な人間だ。
 私が、君を守る、と誓ったのに。
 結局、守ってくれたのは君の方だ。
 それでなくとも、愛しい君が。
 私の為に命を賭け、身体を張ってくれたんだ。
 更に愛情が募って苦しいほどなのに。
 例え、冗談でも、別れると言われて、納得出来るか?」

「……ハインリヒ」

「……そんな風に、私を呼ぶのは、やめろ。
 別れの予感に、心がちぎれそうだ。
 岩井君の頼みなら絶対。
 毒の調合などしない。
 けれども。
 螢が、私と本当に別れると言うなら、思いあまって作り始めるかもしれないぞ?」

「まさか……!
 原材料も、機械も、個人では、手に入らないって!」

 ハインリヒの、声音に、ただならぬものを感じて。

 思わず。

 身を離して彼の顔を見ようとしたけれども。

 ハニーは、僕をますます強く抱きしめた。

「ああ、しかし。
『私』は、これでも、少しは、名の通った研究者だからな。
 社所有の機材を盗み出し……
 書類を偽造すれば……
 職も信用も全てを失うつもりでやれば。
 ……ただ一回だけなら……
 街を丸ごと葬る毒を作り上げることが出来るかもしれない」

「……!」

 驚いて声も出ない僕に。

 ハニーは、『約束』を覚えているか?

 ……と聞いた。


< 144 / 174 >

この作品をシェア

pagetop