クリスマス・ハネムーン【ML】
「……ったく。
 なんで、こんなヤツを『怖い』なんて思ったんだろう?」

 ハニーの情けない顔に。

 思わずそうつぶやけば。

 ハニーは、目を見張った。

「……怖い?
 螢が?
 私のことを?」

「……だって、ハニーが散々。
 毒だのなんだのって、僕を脅かしたろう?」

 ハニーのあまりに驚いた、みたいな、その表情に。

 おかげで、悪夢まで見た、と。

 僕が思わず口を尖らせれば。

 今度は、ハニーの方が、小さく笑った。

「そんなに……脅かしたか?
 悪かったな。
 でも私だって、君のことを怖い、と思うことがある」

「ハニー?」

 僕に聞き返されて。

 本当は『それ』を内緒にしておきたかったらしかったハニーは。

「しまった」

 と思ったみたいに顔をしかめたけれど。

 僕は、見逃さなかった。

 僕の経歴を考えれば。

 世間一般の人々が怖い、と思うのは、当然だったけれども。

 今まで、ハニーは、僕を恐れることはなかった。

 軽く。

 冗談混じりに『怖い』と言われたことは、あるけど。

 こんなに、しっかり、はっきりと言われた事はなく。

 ハニーが僕のことを本当に怖がってるなんて、考えもしなかった。

「……僕が、怖い?」

 僕に聞き返されて、ハニーは渋々と言った。

「君が、見かけよりも、かなり乱暴なことは既に基本だ。
 今の所。
 世間一般のルールを守って大人しくは、してるが。
 本当は、なんで決まりを守らないといけないのか、良く判ってないはずだ」

「……う」

「岩井君に言われるまでもなく。
 君の本質は『向こう側』だからな……引き止め続けていないと。
 ふっ、と、この手をすり抜けて、どこかへ行ってしまう上。
 出て行った先で何をしているか、判らない怖さがある。
 ……しかも、君に言い寄った私以外の男が。
 生死はともかく、東京湾に沈んだのは、実は、本当のことだろう?」

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