クリスマス・ハネムーン【ML】
「仕事を辞めたい?
 莫迦言うなよ。
 お前には『組』からスカウトが来てるぜ?」



 殺伐とした毎日に嫌気がさして、言えば。

『店』の取締役をしている岩井がゲラゲラと笑う。

 どっかの国の人間とのハーフらしい。

 日本人離れした、目鼻立ちの際立った、バタ臭い顔で。

 染めたのか、地毛なのか。

 金髪、と言うより、真っ黄色のナイロン製みたいな髪が目を引いた。

 外見通り軽薄な男で、物事に対するリアクションが、一々大げさ過ぎて嫌いだった。

「セレブを気取った女相手のウリ専なんて、普通。
 三十(才)前には買い手がつかなくなるけど、ケイなら、もっと、イケんじゃね?」

 そう言って、岩井は、芝居がかったように、肩をすくめた。

「それに、この店のオーナーが。
 お前さんの腕と、度胸を見込んで、言ってたぜ?
 こんな店でチャラチャラ遊んでないで。
 組本部の金融取り立て部門に来れば、それなりの待遇で迎えてやるってさ」

「待遇?
 ……いらねぇや、そんなモノ」

 どうせ、僕の本当の雇い主は、この取締役じゃない。

 関東では、ちょっと有名な、中堅暴力団だったから。

 僕のことを過剰に誉める、太鼓持ちみたいな部下を引っ付けておいて。

 より、危ない場所に追いやられるのは、判ってた。

 僕が、完全に盛り下がっているのを見て。

 いつもいい加減な岩井が、ちょっとは真面目な顔をした。

「本気で、組織から抜けるには、相当な覚悟がいるぞ?」

「……指の二、三本でも、無くなる?」

 なんだ、そんなこと。

 大したことじゃないと、笑えば。

 取締役は、ため息をついた。

「ケイは、顔に似合わず、案外根性座ってるからな。
 指どころか、腕一本丸々無くなっても、行く時は勝手に出て行きそうだよな。
 でも、お前さんは『人質』を取られてるだろ?」

「……!」

 
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