クリスマス・ハネムーン【ML】
「い……今はもう、痛くないんですか?」

「……痛む傷なら、上に、何か貼ってるだろう?
 湿布なり、ガーゼなり。
 全部古傷。
 今はもう、関係ないよ」

「そっかぁ……
 それは、良かったです」

「……」

 特に、下心無く。

 そして、何が起きたか? を追及するより。

『傷は痛まないか』と聞いて来やがったあたり。

 佐藤は……間が抜けているほど、人が良いんだろう。

 いろんな事情があっても。

 あまり、人を頼らないハニーが。

 佐藤の無茶な要求を、なんとなく聞いてやっているのが、わかるような気がした。

 ただ、純粋に驚いた子供みたいに。

 僕の傷を触る佐藤の手が、妙に暖かく。

 何だか、心がむず痒い。

 いつも、機嫌良く。

 今回の、晩さん会にしても。

 ハニーは礼服も、靴も何も持って来てなかったのに。

 外国にも関わらず、衣装全部をあっさり調達して来たコトを考えても。

 佐藤は、仕事だって相当デキるヤツなのかも知れなかった。

 闇から這い出た僕は。

 ハニーの側に居るのにふさわしい人間になりたかった。

 女になんて、なれるワケがなく。

 けれども。

 同性の『パートナー』としての地位も。

 もしかしたら。

 姿も、ココロも、何もかもが壊れかけてる『僕』よりも。

 佐藤の方がずっと、ふさわしいのかも知れなかった。

「……いいかげに……してほしいよな」

『佐藤』が、あんまり良いヤツすぎて。

 僕は、却って邪険に声を荒げた。

「いつまで僕に……触ってるんだ……!
 気持ち悪い!」

 なんて。

 そう、心にも思って無いのに。

 佐藤の手を振り払った時だった。

 がちゃっ、と音を立てて。

 僕の部屋に入って来たヤツがいた。


 
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