クリスマス・ハネムーン【ML】
「痛……っ、ててて~~」


 僕は、身体の痛みに大げさに顔をしかめると。

 シャワーを浴びて、着替え。

 昨日使ったリネン類をランドリー袋に放り込めば、後は、何もすることがなかった。

 今から朝食を取ったら、ハニーと昼飯が食え無いし。

 そもそも、今すぐ食べないと困るほど、腹も空いてない。

 カラダが重いので、一人きりで、海水浴をするほど根性も無く。

 僕は、ぶらぶらと暇を潰すために、ケアンズの街に出ることにした。

 ……のだけれども。

 僕たちのコテージのある海岸の辺りから『街』に入って驚いた。

 ……まだ、クリスマスツリーが飾ってあるのに、気がついたからだ。

 日本では、クリスマスが終わったらすぐ、正月モードで。

 今日みたいな、クリスマスが終わった直後には。

 あっという間にツリーは片付けられ、門松だの鏡餅だのが飾られるのに。

 ここでは、まだ。

 派手な電球に飾り付けられたままの、もみの木が、幅をきかせていた。

「……へえ、面白いなぁ」

 不機嫌の虫は、どこへやら。

 昨日までのクリスマス・モードのままの、かわいいおもちゃか箱庭の様な街の様子に。

 僕は興味津々と歩き回っているうちに。

 正月に門松やお飾りを玄関口に置く習慣なんて、西洋には、無いことを思い出した。

 ここではツリーが正月の飾りの代わりなのかもしれない。

 そんなことを考えながら。

 普通の新婚旅行らしい男女のカップルや、親子連れの間に紛れるように。

 人の流れに沿ってのんびり歩く。

 ケアンズは、観光の街で、昔、僕のねぐらにしていた繁華街の表通りにちょっとだけ似てた。

 もっと、こっちの方が上品だけど。

 洒落たレストランやカフェが立ち並び、土産屋も点在してる。

 その中には、オーストラリアと聞けば誰もが思い出す。

 本物のカンガルーの前足が背中を掻く『孫の手』として売られてるのが、面白かった。

 
< 58 / 174 >

この作品をシェア

pagetop