クリスマス・ハネムーン【ML】
 そして。

 ふっ、と気がつくと。

 自分が、ホテルと併設されているカジノ(賭博場)の前に立っていることに気がついた。

 どうやら、本能的に後ろ暗い場所を探しやすいんだ、と。

 そう考えて、苦く笑う。

 なにしろ。

 日本での賭博は、禁止されているけれど。

 オーストラリアでは、違うんだ。

 パチンコ屋や、競馬に行くのと同じような手軽さで。

 みんながカジノに集まってゆく。

 僕は、賭事に興味はなかったけれど。

 暴力団と関わりがある時に。

『兄貴分』ってヤツと一緒に。

 自分の組の違法賭博場の見回りをしろ、と。

 命じられ、ついて行ったことがあるのを思い出した。

 その時は『仕事』で遊べなかったけれど。

 ここでは、真っ昼間から堂々と中に入れるみたいだ。

 僕は、合法的な賭博場の中がどうなっているのか覗いて見る気になって。

 自分の所持品をざっと調べた。

 日本円で三万円ほどの現金の他には。

 パスポートや、クレジットカードやその他。

 自分の身分を証明するモノは、何も持って無いことを確認した。

 もちろん、これは、違法な場所に入っている時や。

 警察のガサ入れや、他の組の抗争に巻き込まれた時なんかの対策で。

 自分の正体がバレる前に逃走するためや。

 遊んでいるうちに不当な金額を払えと言われた(いわゆる、ぼったくりに捕まった)時に。

 手持ちの金以外に取られないようにするための基本、なんだけど。

 ……そんな用心は、まず、要らないことに気がついて、肩をすくめた。

 なにせ、国が経営してる、合法的な店で。

 本当に一般のホテルの真横だし、なぁ?


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