クリスマス・ハネムーン【ML】
 どうやら、沖から帰る途中。

 今まで聞いたことの無い、環境保護の団体を名乗るグループが。

 足の速いクルーザでハニーの乗る小型ボードを追いかけ、乗り込んで来たらしい。

 そして、今後の海洋調査の停止を求めて、抗議した挙げ句。

 ハニーの返事を待たずに拉致して行ったんだ。

 佐藤の話によれば。

 どう考えても、環境保護の話し合いと言うよりは。

 身の代金目的の誘拐事件にしか見えないって言う、その暴漢の数を聞いて、僕は唸った。

 ハニーのボートに乗り込んで来た人間は、せいぜい、五、六人程度だそうだ。

 いくら、武装していたとはいえ。

 別に、映画みたいにマシンガンを乱射していたわけじゃないと言う。

「だったら、もう少し根性出して、霧谷さんを守って下さいよ!」

 思わず怒鳴った僕の声に、受話器の向こうの佐藤が、息をのむ。

「そ、そんなこと言ったって!
 わたしも、出来るだけ抵抗しましたよ!
 でも、殴られて気を失った上、縛られて、どうしょうもなかったんです!」


 くっそ!


 がんっ!


 僕は、手近の壁に八つ当たる。

 もし、もしも。

 僕がハニーの船に乗り込んでいたら。

 いや、ジョナサンが、僕の方でなく、規定通りハニーに張り付いているだけでも。

 ハニーは、こんなに簡単にさらわれて行かなかったかもしれなかった。

 でも、現実は。

 基本、荒事とは無関係のハニーと、佐藤の他に。

 戦えるのは、ハニーに張り付いていた警察官一人だけで。

 その警察官も殴られて、海に投げ込まれてしまったらしい。

 佐藤は、ボートの上で一人、洋上を漂っている所を、回収されて。

 ついさっき、目が覚めたんだと訴えた。
 
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