クリスマス・ハネムーン【ML】
 そんなふうに、書いた紙を握り締め。

 まだ本部から一大事の報が届いてなかったのか。

 桟橋でぼーっとしていたジョナサンと一緒に。

 佐藤が収容されている病院に駆け込めば。

 僕はまた、壁にぶつかった。




「……家族じゃないと……立ち会えないって!?」



 誘拐事件に、あらかさまに警察が関わっていることが判れば、ハニーの命に関わると。

 警官の制服を私服に着替えてついて来たジョナサンに。

 佐藤の病室に詰めかけた、私服のケアンズ警察の話を通訳させて。

 僕は、唇をかみしめた。

 武装グループに殴られて、出来た傷を。

 包帯でぐるぐる巻きにした佐藤もどなる。

「そんな!
 霧谷さんが目の前でさらわれても何も出来なかったのに!
 捜査協力も出来ないなんて!」

「Mr.佐藤は、もしかしたら誘拐犯との交渉窓口になるかもしれねぇが。
 お師匠さまは、なぁ。
 相手は、イタズラなんかじゃない。
 オーストラリアにも、環境保護団体は、山ほどいるが、今回は、今までに例を見ないほど凶悪で……もしかしたら、外国人も関与しているかもしれねぇな。
 Mr.霧谷が本当にさらわれて、どんな状況か判らない以上。
 こっちも本気で動くんだから!
 Mr.霧谷のプライベートに関わる捜査もしなくちゃなんないかもしれねぇ。
 役に立たねぇ素人が大人数でうろうろしてっと邪魔なんだ。
 もちろん、コトが 解決したら、会社の方に、細かい連絡は入れるから。
 それまで、待ってろ!」

 口調はともかく。

 至極真面目なジョナサンの言葉に、佐藤は黙り。

 僕は、首を振った。

「………待てない」

「お師匠さまも、子供みたいなコトを言わないで下さいよ!
 俺達は、全力で、Mr.霧谷の無事な奪還を……」

 ジョナサンの言いぐさを手で制して、僕は唸った。

「霧谷さんには『時間』が無いんです」

「そ、そりゃあ、仕事をしに来ていれば、確かに……」

 こんなときに、時間だなんて。

 だから日本人は、と苦く笑って肩をすくめるジョナサンを僕は睨んだ。

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