クリスマス・ハネムーン【ML】
「仕事の話じゃありません。
 でももし、霧谷が拉致されてしまったのが本当なら。
 一刻も早く、見つけて、解放しないと大変なことに……」

「Oh~~
 確かに一大事ですが、何もいきなり命に関わるとは、思えません。
 人質が、いきなり死んだら交渉だって難しいでしょう?」

 コトの重大さが判らずに。

 あくまでも軽い口調のジョナサンに、僕は、重く釘を差した。

「霧谷さんには、内臓疾患があって、それを薬でコントロールしています。
 もし、時間ごとにきちんと薬が飲めない状況が続くなら。
 例え、誘拐犯が、霧谷さんに指一本触れなくても。
 彼は最悪……死ぬかも……」

 ずん……

 自分の言葉に自分で落ち込み、頭を振る。

 ……そんなこと、させない。

 絶対に。

 まだ、愛された快感も跡も、痛みさえも残っているのに。

 ハニーが死んでしまうなんて。

 昨日の愛の交換が、最後だなんて。

 僕は絶対に、認めてなんてやらない。

「もちろん、予備の薬は、本人が持っているはずですから。
 霧谷さんが今すぐ、調子を崩すことは、ありません。
 しかし。
 霧谷さんが一分一秒でも早く助かるなら。
 僕は、脅迫電話の電話番でも。
 身の代金の受け渡し役でも、何でもやります!」

「……電話番って、お師匠さま。
 あなたは、言葉だってまともにしゃべれないでしょうに」

 呆れたようにため息をつくジョナサンに、僕は詰め寄った。

「それでも僕は……っ!」

 黙って待っているわけには、行かないんだ!

 と。

 思いの丈をジョナサンに叫ぶコトが出来なかった。

 なぜなら。


 とん、とん!


 なんて、せわしないノックが聞こえ。

 部屋にいる、誰の返事も待たずにもう一人の私服警官が、病室に飛び込む様に入ってきたから。

 その、手袋をはめた警官のごつい手に持っているモノを見て、僕は息をのんだ。

「霧谷さんの財布だ……!」
 
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