クリスマス・ハネムーン【ML】
人魚の黄昏
「……霧谷さんの居所がわかった!?」
ケアンズ警察の雇った犯罪交渉人からの報告で。
そこが、沖に出る桟橋からそんなに遠くない、小型船をメンテナンスする工場群の一画だと聞いた。
観光客の目を引かない、湾の一角で。
海の上に直接小さな工場だか、大きめのガレージだかが乗っていて。
船の軽い傷や、上モノは海に浮かんだまま、修理できる仕組みになっている。
ここでは、何の変哲もない場所らしい。
今まで、ずっと、コテージの電話の前で、犯罪グループからの電話を待っていた僕は。
取るものもとりあえず、その場所に飛んで行こうとして、ジョナサンに止められた。
「ダメですってば!
相手は、取り引きする材料として『金』で無く。
環境問題の対話を求めているんですよ!」
「だから、なんだよ!」
「これ以上の捕鯨停止と海洋調査の無期限延期が、向こうの要求です。
対話相手が、日本の国だの、企業だのって大きいので、ただでさえ、時間がかかるのに。
霧谷博士は客分として扱っているから心配するな、なんて言って来ている以上。
長期戦を狙っているようですが……」
「じゃあ、なおさら早く行かないと、ハニーの期限に間に合わないじゃないか!」
相手は、ハニーの事情を知らないから、財布をこちらによこしたはずで。
僕は、ますます苛立った。
本当に、時間がないんだ!、と。
焦る僕に、ジョナサンは首を振った。
「気持ちは判りますが、交渉内容が、とても複雑なんです。
個人が勝手に動いたら、まとまる話も、まとまらないでしょう?
無理をすると却って、時間を喰ったり、博士の命を危険にさらすことにもなりかねませんから!」
「ち……くっしょっ!」
腹立ち紛れに、壁を殴れば。
コテージの電話を逆探知しようと集まっている捜査員たちと。
本当は入院していなくちゃいけないはずなのに、コテージに詰めてる佐藤が。
一斉に、咎めるように僕を僕を見た。
「お師匠さま」
「螢さん」
「……るさいな。
おとなしく、してればいいんだろ?」