クリスマス・ハネムーン【ML】
「……寒っ!」
海に身を浸し、湾を三分の一ほど横切った頃だった。
案外、湾の中でも、潮の流れが強いことに気がついた。
暖かで緩やかな流れの中に、突然強引に割り込んでくる冷たい海流が、あった。
これは、この湾の特徴、というよりも。
嵐が近づいて来ているのかも知れなかった。
うかうかしていると、体温をむやみに下げて。
凍えたカラダを沖まで持って行かれることになるかもしれない。
下手をすると、この流れは、人喰いザメよりも厄介かもしれなかった。
「大丈夫か!?」
さすがに心配になって、佐藤を振り返れば。
ヤツは必死に僕の後を追いかけて来るトコロだった。
頭に傷を負っている上に。
フィン(あしひれ)を使った泳ぎに、そんなには、慣れていないらしい。
ハニーと一緒に沖に出た時の、ボートの操舵は、なかなか良かったし。
足手まといにはならない、と自分で言ってたから、大丈夫だと、思っていたけれど。
浮力の高い、ウェットスーツを着ているにも関わらず。
波の合間に、ほとんど溺れてる、と言って良いくらいに浮いたり沈んだりしている佐藤を見て。
僕は思わず、大きく舌打ちをした。
「佐藤! あんたは、帰れ!」
「イヤです!」
怒鳴った途端に、海水を呑み。
ぶくぶくぶくっと沈みかける様は。
ギャグなら面白いけれども、現実では、とんでもなく危険なコトだ。
僕は佐藤を仰向けに抱えて、荒れ始めた海上に浮いた。
「す……すみません。
なんだか、わたし。
嵐の夜、人魚姫に助けられた王子様の気分です……」
「ばかたれ!」
そんなコトを言っているヒマがあったら自分で浮け、と。
つき放そうとしたら、また、沈みかけ、僕は慌てて佐藤を抱えなおした。