クリスマス・ハネムーン【ML】
「「ここだ……!」」
目当ての場所を見つけて、佐藤と顔を見合せた。
それは、ちょっと見ただけでは、何の特徴のない場所だった。
周りの工場群に圧倒されて、消えてしまうんじゃないか、と思うほど何の変哲もない、三階建ての工場で。
一階部分が、海の真上に、専用の桟橋を覆うように直接建っていた。
そして、中に足の速そうなクルーザーが係留されているのを見て、佐藤が口の中で唸った。
「わたしたちのボートを襲った船に間違いないです!」
そう。
懐中電灯を向けた先の、薄闇に浮かび上がる、船首に書かれた船名と番号で、判ると、佐藤が言う。
ハニーや佐藤、それに護衛代わりのジョナサンの相棒を乗せた船を追いかけまわし。
とうとう、ハニーを拉致って行った船だ、と佐藤に太鼓判を押されて僕は、思わず、駆けだした。
中から灯りは見えず、時間が経っているコトを鑑みれば。
この中に、ハニーがいるはずないって判っていたけれど。
それでも、走らないわけには、行かなかったんだ。
ハニーを探して、クルーザーの中をくまなく懐中電灯の光を当てないわけには、行かなかったんだ。
「ハニー!
ハニー! どこに居るんだ……!」
静かな静かな闇の中。
呼べば、ハニーの声が聞こえてきそうな気がして。
我を忘れて、愛しいヒトを探しまわる僕を、佐藤が止めた。
「螢さん!
静かに……!
ここには、もう……!」
「判っているけど……っ!」
「判ってません!
ここで騒いで見つかったら意味がないでしょう?」
「でも!」
我ながら、だだをこねているみたいに更に言い募ろうとした時だった。
「「「Who!」」」
まるで。
地の底で鳴くフクロウが、何羽も居るかのように、騒ぐ声が聞こえた。
『誰だ?』と口々に言いながら来たのは、僕たちの『灯り』を見とがめ、声を聞いた者たちで。
ハニーを連れ去った、ヤツら。
そのものに、違いなかった。