カウントダウン
もうかれこれ10ヵ月は一緒にいるから、急なお泊まりだって大丈夫なくらい私のものがある。
だから泊まっていったって何の問題もない。
だけど、浴室にいる私は不安でいっぱいの気持ちになっている。
私の不安は、ただひとつ。
お風呂を上がったら、抱かれるかどうか。
どうしてだろう。別れを決めた2ヵ月前は、別れる日までカレカノらしくしようって決めたのに、拒否したい気持ちが膨らんでる。
「彩音、何分入ってると思ってんだ。早く出ろ」
「ああ、ごめん」
でも結局急かされて、言いなり。
今日のバスタイムは、嫌な感情を含む1日の全てを流せなかった。
「ごめん、疲れてて……」
「寝てるかと思った。髪、乾かしてやるからこっちに来いよ」
「……うん」
ドライヤーを持って前に座れば、長くて綺麗な指が髪に触れた。
「風邪引くなよ、お姫様」
「お姫様ってなによ」
「執事と姫みたいだろ?てか、こんな事俺にやらせんのってお前くらいだよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
「嬉しい。ありがと」
鏡越しにお礼を言ったら目があって、微笑む悠斗に不覚にもドキッとした。
「なに?惚れ直した?」
「は?」
「照れるなって」
普段私の事なんて見向きもしないのに、こんな微かな反応を見逃してはくれない。
「バッカじゃない?」
「照れた彩音も俺、好き」
乾くたびに髪がサラサラと揺れる。そこに唇を寄せる悠斗は、最後の一本まで乾かしてから、自分もお風呂に入るとバスルームに消えた。