カウントダウン
「送ってくれてありがとね。明日、気合い入れてお弁当作るから」
「マズかったら食わねぇからな」
「うん、頑張る。……あ、お茶とか……飲んでく?」
買い物してくれてわざわざ送ってくれた場合、やっぱりお茶のひとつもご馳走するのが礼儀なのかな?よく分からないよ。だって礼儀作法なんて教わる環境ないし。
あれこれ考えを浮かべていれば、大きなため息が聞こえた。
「祐介、ため息ばっかりだと幸せが逃げるよ?」
「アンタのせいだ」
外灯に照らされた祐介の顔は、見下すような呆れるような、そんな表情。
「なによ、私なんかした?」
「彩音は一人暮らしだろ?」
「……うん。望んでもいない一人暮らしをさせられてもう1年以上経ちます。いや、その前から既に放棄され気味で、よくグレずに頑張ってきたなぁと自分でも感心し……」
「女の一人暮らしで男をホイホイ家に上がらせちゃうんだ?」
「……は?」
ヒトの話をブッタ切ったと思ったら相変わらずの減らず口。
「少しは危機感持てよ。俺が悠斗のダチだからヘーキとか思ってるわけ?無防備過ぎんだよ」
「別にそんなつもりじゃないよ!祐介はそんな人じゃないって分かるもん」
「知った風な口きくな。俺だって男だ。勃てばヤれる」
「!!!」
ニヤリと笑う祐介はなんだか悪代官みたいに見える。思わず後退りしたらその表情が和らいで、こっちを見つめるブルーのカラコンが優しく揺れた。
「戸締まり、しっかりしろよ。オヤスミ」
祐介はクスリと笑ってから耳元でそう囁いて、颯爽とバイクを転がして帰って行く。
「やっぱり、優しい」
もう祐介に恋なんてしないって思わせるような告白のフリ方の想像がつかない。
それに祐介がホモかどうかなんて噂に過ぎないし、違うかもだけど、万が一祐介が悠斗を好きだとしても、私を陥れるような方法を考える人なんかじゃないって、そう思えるんだ。