ごめん、好き。
断ったのに、結局亮くんは途中まで送ってくれることになった。
二人きりなんて初めてじゃないのに。
普段おしゃべりなはずなのに。
あたしたちはなにも話さずに、ゆっくりと歩いている。
この空気が心地いい。
ただ一緒にいるだけでいい。
なにも望まない。
なにも見ない。
なにも言わない。
あたしの気持ちはあの日から鎖で固めた箱に押し込んだのだから。
「あっ、着いたよ」
「あれっ、いつのまに!?」
気づくと、あたしは家の前まで来ていた。
「眉間にしわ。」
「………」
あたしの顔をのぞき込むように、亮くんは少し前屈みになった。
顔の近さはわずか1センチ。
目を見開いて悪戯そうに笑う亮くんを見た。
ドキドキとあたしの心拍数があがっていくのが分かる。
「まだユカのことで悩んでる?
もうさ、気にしなくていいよ」
それはどこか寂しそうに。
でもそれを隠そうと笑顔で。
「俺ら別れたから」
そう言いながら、彼の唇があたしに触れた。