パステルカラーの恋模様
「あ、あの」

あたしがそう言おうとすると、啓太は『しーっ』と口に人差し指を当てて、「えっ、あ、何でもないよ。うん。それで?」

と電話の相手に笑った。


…何よ。すいませんね、お邪魔でしたね。


すると啓太が話しながら、『入って』というふうに、あたしが入れるくらいまでドアノブを押してから、体を横にして道を開けた。


あたしはためらいながらも、こそこそと部屋にあがった。



ああ…昨日のことがフラッシュバックする。

ふわふわのベッドとか、新築の部屋の匂いとか、異常な頭痛の感覚とか。



そんなの、思い出したくもない。

とにかくあたしは学生証を探さなくちゃ!


啓太は、後ろから戻ってきて、電話台の所の壁に寄りかかって話を続けた。



あたしの存在無視かよ…。

って、まあ、その方がある意味都合いいか。



「だから、本当に大丈夫だって!うん。もう子供じゃないんだし」


子供じゃないって…親とでも話してるのかしら。



「そうだよ。全然心配いらないから、大丈夫だから。ねっ!」



だんだん啓太の笑顔がひきつってくるのが分かった。

そんなのどうでもいいけどね。



…あった!


あたしはやっとのことで、リビングの机の上にきちんと置いてある学生証を発見した。

奴はあたしが取りに来るって予想してたのかな?

あたしは、大事にそれをバッグにしまい、啓太を見た。



電話はまだ続きそうな様子だ。

しめしめ、今のうちに逃げちゃおう。


あたしはさっさと啓太の後ろを通りすがろうとした。

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