パステルカラーの恋模様
そして、啓ちゃんは、そっとあたしの手を握った。

あたしは、電気が走ったみたいにびっくりして、啓ちゃんを見た。



愛美さんは驚きと悲しみの入り混じった、今にも崩れそうな顔をして、唇を噛んだ。




啓ちゃんは、愛美さんを見て、小さく頭を下げた。

握った手が、もっと強く握られた。




「……愛美、ごめん。俺はもう、あの頃には戻れない」



啓ちゃんはしっかりした声で言い、顔を上げた。

愛美さんは、小さく首を振る。



「……どうしてっ…?」

「今を生きてるから。それに俺、目を閉じて一番最初に思い浮かんだのは……愛美じゃなかったんだ」



啓ちゃんは、そっとあたしを見た。

そして、また愛美さんに向き直ってつぶやく。




「傷を癒してくれた。出会いはへんてこだったし、いっぱい迷惑かけた。告白も…勇気出してくれたのに、なぁなぁにしちゃって……。何度も何度も、何度も何度も考えた。でも、俺がいつも一緒にいたいって思ったのは……美園だったんだ」





うそ……?

啓ちゃんが、あたしと一緒にいたいって思ってくれてたの……?


うそ、これは…きっと夢だ……うそだ………




「嘘っ……!」



愛美さんが目に涙を溜めて、声を荒げて言う。

啓ちゃんはもう一度返す。




「嘘じゃない。俺は、美園と一緒にいたいんだ」





嘘じゃない、夢じゃないよね……?

涙がじわじわと溢れてくる。



啓ちゃんは、痛いくらいに手を握りなおした。

その手は、大きくて、優しくて、温かくて……。




「俺にとって、今、一番大切な人は、美園」




あたしは口を押さえて、ぼろぼろ泣いた。





夢なら、覚めないで。

永遠に、覚めないで―……。
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