パステルカラーの恋模様
「ふがっ!」


……え?


目を開けると、啓太がにししっと笑って、あたしの鼻をブタみたいに押していた。


「何すんの、あんたぁ!!」


とっさに離れるあたしの横をすり抜けて、啓太はあたしの前に躍り出た。

そして、やんちゃな笑顔でこう言った。



「鼻んとこ、黒いすすみたいのついてるよ」

「えっ?」


あたしは慌てて鼻を袖でふいた。

啓太はそのまま前を向いて、ポケットに手を入れて歩き出した。



ああ、何だか眩しいな。

この背中は。


つい手を伸ばしたくなる。

だけどあたしは手を引っ込めた。



ねぇ、あたし、やっぱり、啓太に対して『何も思ってない』って言ったら、嘘になるんじゃないかな。



くやしいけど、こうやって、来てしまったじゃない。

まるで、啓太に吸い寄せられるように。



きっと、くったくのない笑顔に会いたいと思ったから。

あの甘ったれたワガママを、放っておけないから。

一緒にいると、自分を飾らなくていいから。



だから、あたしはまたこうして、啓太と一緒にいるんじゃないの?

昨日、“本気になってない”って言われた時、本当はちょっと寂しかったんじゃないの?



分からない。

でも、今は分からなくてもいいよね?


分かろうとすると、唇が乾くから。

心が焦って、うまく笑えなくなるから。



ああ、やっぱり、空が綺麗―…。


あたしは、啓太がまた変な鼻歌を歌い出したのと、空のオレンジ色が綺麗なのとで、何だか切なくなって小さく俯いた。
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