【短篇】こ い い ろ 。
 



「あの、ぶつかったのはすみませんでした」

僕が手に取った参考書を片手に持って、空いた片手で彼女の背中をさすると、彼女は「違う」と首を振った。

違う、違うの

なんて、掠れた声で言いながら。


「彼氏と喧嘩したの」

「は……?」


なんだこの女。
なんて言えないが、僕は心の中でそう言う。


「彼氏が、もう彼氏が酷くて……っ」


それから彼女はもう一度大声で泣き、図書館にいた人に注意されて大人しくなった。
「ちょっと話聞いて」と言って僕を空いている席に座らせて、延々と話を聞かされた。


……すごくどうでもよかった。


 
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