【短篇】こ い い ろ 。
「……っけもと く、」
小声で彼の名を呼ぼうとするがなんだか身体が震えて声が掠れる。手を掴む力が強い。痛い。「痛い」と私が言うと、竹本君ははっとしてすぐに手を離した。「ごめん」彼は私から離れた。
「いいよ別に。事故かなんかでしょ。それより資料見つかったから、はやく教室戻ろ。」
わたしは起き上がり、落とした資料を手に取ってポニーテールをほどいてから教室へ向かった。竹本君は、それから教室に戻って来なかった。
事故。そうだ事故だよ。事故としか考えられない。というか事故にしてくれ。そんなことされたら私は困るのだ。だって、竹本君のこと、何とも思ってなかったし。……というより、竹本君も私のことなんか何とも思ってないだろう。忘れてしまえ。私は資料を教卓に置いて鞄を手にとり、教室を出た。