【短篇】こ い い ろ 。
 




「……はい」


わたしはまた急に恥ずかしくなり、聞く方にまわる処置を取る。
ああ、後先考えずに喋るわたしもおかしかった。きっと先輩には怒られるんだろうな。かくれんぼ中だし、先輩ならきっと私の言いたいことだってわかっている。黙り込まれてさぞかし面倒だっただろう。ごめんなさい。でも、ごめんなさいも言えない。重なった言葉のことを考えた。好きという想いとごめんなさいという想いが重なれば、それはそれは気持ちの悪いことだ。思わず泣きそうになる。目を閉じよう。


「……目、つぶって」


はい、今思っていました。今から目を閉じて涙が流れるのを防ぎます……って、え?
閉じていた目をぱちりと開けた。わたしと先輩の距離は、一気に縮まっていた。
はっと思えば、唇に温かい体温。先輩の、体温だとわかれば、私の顔は更に紅潮した。
そっと唇を離した先輩の息が頬にかかった時、先輩は言った。


「……好きだ」


私の肩が揺れる。先輩は恥ずかしそうに目を左右に動かしていた。
言いたかった言葉も、今なら言える気がする。いいや、言わなきゃいけない。
どくり、と心臓が大きく脈打ったと同時に、わたしはすうと息を吸った。


「……わたしも、先輩のこと好きです」


そして、同時に静かに笑った。





10 end



 
< 80 / 80 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

水没
シイノ/著

総文字数/1

恋愛(その他)1ページ

表紙を見る
括弧の中に何を入れよう
シイノ/著

総文字数/12,318

恋愛(その他)49ページ

表紙を見る
【短編集】Love Sick
シイノ/著

総文字数/6,714

恋愛(その他)13ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop