【短篇】こ い い ろ 。
「……はい」
わたしはまた急に恥ずかしくなり、聞く方にまわる処置を取る。
ああ、後先考えずに喋るわたしもおかしかった。きっと先輩には怒られるんだろうな。かくれんぼ中だし、先輩ならきっと私の言いたいことだってわかっている。黙り込まれてさぞかし面倒だっただろう。ごめんなさい。でも、ごめんなさいも言えない。重なった言葉のことを考えた。好きという想いとごめんなさいという想いが重なれば、それはそれは気持ちの悪いことだ。思わず泣きそうになる。目を閉じよう。
「……目、つぶって」
はい、今思っていました。今から目を閉じて涙が流れるのを防ぎます……って、え?
閉じていた目をぱちりと開けた。わたしと先輩の距離は、一気に縮まっていた。
はっと思えば、唇に温かい体温。先輩の、体温だとわかれば、私の顔は更に紅潮した。
そっと唇を離した先輩の息が頬にかかった時、先輩は言った。
「……好きだ」
私の肩が揺れる。先輩は恥ずかしそうに目を左右に動かしていた。
言いたかった言葉も、今なら言える気がする。いいや、言わなきゃいけない。
どくり、と心臓が大きく脈打ったと同時に、わたしはすうと息を吸った。
「……わたしも、先輩のこと好きです」
そして、同時に静かに笑った。
10 end