天然男とツンデレ女
純夜
今日はいつもより倍以上の人が乗っていて
いわゆる満員電車とか言うやつかと知らず知らずの内にため息をついた。
彼女が乗り込んだのかどうかもわからないくらいの量の人の出入りに圧倒されながら
流れに流されて扉近くまで押された。
ぎゅうぎゅうと背中が押される感覚にうんざりしながら前を見た。
前を見て、満員電車であった事が神様からの贈り物なんじゃないかってくらいに心の中で喜んだ。
上がりそうになる口元を必死に押さえて口を開く。
今日こそ
今日こそは話しかけなきゃ。
きっとこれは神様がくれた機会なんだ。
じゃなきゃ目の前に彼女がいるなんて、信じられないんだよ。
遠かった彼女が今、目の前に居て、
眠たそうにうとうとしてるなんて。
このチャンスを逃したら、絶対にチャンスは来ない。
一言、声をかけてしまえば、きっと後は楽になる。
そう決心した俺は、目の前でうとうとしている彼女に声をかけた。
「あのっ」
思ったよりも大きな声が出て、びっくりした。
けれど、彼女は気づかなかったかのようにちっとも反応しない。
せっかく、無いに等しい勇気を振り絞ったのに。
少し不安になりながらも、
こうなったら、ともう一度口を開いた。
「すみませんってば」
なんだか怒ったような口調になってしまったけれど、彼女が少し身動ぎしたから、気にしないことにした。
そのまま顔にかかった髪を片手ですくって耳元にかける仕草の後に上を向いた彼女に
俺の心臓が止まった気がした。
「え、と…」
ベタな表現かもしれないけど、本当にそうなんだ。
白い肌に少しピンクに染まった頬
少し機嫌が悪そうに寄せられた眉
ふっくらとしたピンクの唇
どれもこれも見たことがないくらい魅力的で
困った事にそれ以上の言葉が出てこなかったから、頬を少し掻きながら言い淀んだ。
あぁ、やっぱり何話すか決めとけば良かった
そう思っても時既に遅し
彼女が口を開いた。