カモミール・ロマンス


「……りんご」



急に出てきた単語に二人はぽかん、と勇気を見つめる。

勇気は二人から目を逸らしたままに続けるのだった。

「今朝、バス停で待ってたら、急にりんごみたいな香りがして」

翔は勇気と一緒に来たので、その場に居合わせたはずだった。

しかし翔の記憶にはそんな香りはなかった。

「それで振り返ったんだけど、女の子……後ろ姿で……黒い長い髪の……その」

喋っていて恥ずかしくなってきてしまったのだろう。

勇気は窓の方を向いたまま机に腕を枕にして、顔を伏せた。

「はぁ?なにそれ?」

美咲が大声でそう言った。

本当に理解できない。といった表情だ。

眉間にしわをよせている。

「ユキ本当にその子のこと好きになっちゃったの?顔すら見てないのに?」

「…………」

翔の質問の答えを、勇気は必死で探していた。



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