カモミール・ロマンス
しばらく2人は携帯を耳に当てているだけで、言葉を交わさなかった。
「んっ、ごほっごほ……」
翔の咳で沈黙が破れて、美優が話しだす。
「あの、風邪で大変な時に誘うのもあれなんですけど……
うちの兄が8月14日のフェルディ戦のチケットを取ってくれて、もし良かったら山田先輩と一緒に行きたいな、と思って」
突然だったからではない。
ただ嬉しくて、嬉しすぎて、翔は返事をすぐに返せなかった。
夢なんかじゃありませんように。そう何度も何度も胸の奥で願って。
喜びを噛み締めて、ようやく一言、絞りだす。
「……うん、是非」