カモミール・ロマンス

波で水面に写った影が力なく揺れる。

太陽光の反射角の偶然だったのか、海底からのオレンジの光はもう見えなくなっていた。

「あ、翔だ。

おーい、翔!ナオ!」

勇気が大きく手を振ると、翔は笑顔で手を振り返し、直也は砂からもぞっと左手を突き出した。

「なぁ美咲」

「……なに?」

勇気はくしゃっと笑う。

「来て良かったな、海」

「うん……良かったね」

「さぁて、そろそろ帰りますかね」

じゃぶじゃぶと水をかきわけて岸に戻っていく勇気。

美咲はほんの少しの間だけ、ゆるやかに揺れる波の中沈んでいく真っ赤な太陽を見つめていた。






< 140 / 228 >

この作品をシェア

pagetop