カモミール・ロマンス
『チャララー♪』
「へっ?わっ、す、すいません」
一時間目の最中に翔の携帯が教室に鳴り響いた。
「こら山田、ちゃんとマナーにするか電源切るかしておけよー」
幸いにも化学の橋本はあまり生徒を叱るタイプの教師ではなかったし、注意だけで済んだ。
「じゃあ今から47ページに載ってる例題を解いてもらいます。せっかくだし山田に前でやってもらおうかな」
でも橋本は意地悪なので、翔が化学が苦手なのを分かった上でそう言った。
翔は自業自得だな。と苦笑い。
「困ったな。ねぇ、美咲やり方教えてよ。
……美咲?」
「えっ……?あ、えっと今どこやってるんだっけ?」
ぼーっと机を見つめていた美咲。
開かれた教科書は59ページになっていた。
「……どうかした?」
美咲は下駄箱に入っていた手紙を思い出す。
そしてゆっくり首をふった。
「……何かあったんだね?僕達が美咲の異変に気付かないわけないのは、美咲だって分かってるよね」
じっと見つめる翔。
美咲は拳を強く握った。
「あ、あのね……翔」
「はい、じゃあ山田くん宜しくー」
「へっ、あ、橋本先生ちょっとたんま!」
あたふたとする翔。
「授業中にたんまなんかねーよ」
翔は美咲に振り返りながら前に出る。
美咲はまた俯いていた。