カモミール・ロマンス
柔らかな風が吹く。
夏が過ぎていったことを告げるかの様な涼しい風。
「……そっかぁ上手くいったんだ、翔のやつ」
前髪がふわりと浮いて、右に流れた。
勇気は直也をまじまじと見る。
「……な、なに?」
勇気はにっと歯を見せて笑った。
「自分のことじゃないけど、友達の幸せって嬉しいな」
(あ……まただ)
直也は勇気の豪快な笑顔から目を逸らして、また寝転がった。
自分の前髪の先を見つめながら、呟くように言う。
「……ユキは、それからどうなの?沙織ちゃんとはさ?」
勇気は直也の方をちらっと見て、青い空を見上げて「んー」とうなる。
「なに?進展ゼロ?」
「んー、どうだろ。
最近ちょこちょこメールはする様になったんだけど、学校と予備校の時間は当り前だけど返信なくて」
勇気は右手でズボンのポケットに入れられた、鳴らない携帯に触れた。
「だけど凄い幸せでさ。
最初は頭の中で思い出すだけだったのが、いつの間にか公園のベンチで喋る様になって……
今じゃこうして、1日に何通かだけだけどメールもできてさ。もっと進展させようとかあんまり思ってないんだよ」