カモミール・ロマンス
直也は揺れる電車の横顔を思い出しながら言う。
そこには悲しさと優しさが少しずつ混じっていた。
「本当に好きなんだな……」
直也が首を横に向けて勇気を見ると、勇気は笑う。
「うん、本当に好きみたい」
直也は目を瞑ってゆっくり頬を上げた。
「ホント、こいつには適わねぇわ……」
ぼそりと溢した直也。
「え?ナオ今何か言った?」
「んー?何にも」
勇気のいる方とは反対側に寝返りをうって、背を向けた。
「ウソだー。絶対に何か言ってたって。
なんだよー、気になるじゃんかよー」
ゆさゆさと直也の背を揺らす勇気。
そうして揺られながら、直也の耳の奥ではあの時の電車の揺れる音が響いていた。